減感作療法は、どんなふうに行なうのですか

検査や、治療のスケジュールなどについて、教えてください。

まず、問診と検査から始まります

《問診の項目》

  1. 年間を通して考えて、どういう症状がいつごろ出て、いつごろまでつづくか
  2. 1日のうち、いちばん症状が出やすいのは何時ごろか
  3. 初めて症状が出たのはいつか
  4. 通年性のアレルギー性鼻炎や、食べ物のアレルギーはあるか
  5. 家族に花粉症と診断された人はいるか
  6. 犬や猫などを飼っているか
  7. タバコは吸うか
  8. くしゃみは出やすいか。ラーメンを食べると、汗が出たり、鼻水がでたりしないか
  9. お住まいはとこか
  10. 職業は。勤め先は。出身は。などなど

大事な注意の一つは、花粉が飛び出す、少なくとも3ヵ月ほど前に治療を開始する、ということです。減感作療法の目標である「維持量」(あとで説明します)に達するまで、ふつうのスケジュールでは、どうしても12~13週、3ヵ月くらいはかかりますから、スギ花粉が原因なら、遅
くても秋口の十月ごろには始めたいのです。

減感作療法は、アレルギーの要素が少ない、粘膜や神経の過敏症の方には、あまりいい方法ではありませんから、患者さんには、最初にしっかり問診と検査をして、その方の花粉症加減感作療法に合っているかどうかをしらべます。また、こういった検査は、風邪薬などをのんでいると、結果が正確にでませんので、検査を受ける前は、クスリの服用は控えていただきます。

そして、減感作療法の効果があるスギ花粉症とわかったら、その方の「闘値」(ある刺激が生体に反応をひきおこす最小の値のこと。反応を起こす境目になる数値なので、閾の値と書きます)をしらべます。具体的には、スギ花粉から採った、閾値を知るための標準エキスを、たとえば1000倍に薄めたもの、100倍に薄めたもの、10倍に薄めたものというふうに、濃度の薄いものから順に皮内に注射していきます。すると、初めて赤く腫れる症状が起こる濃度がわかります。その希釈倍率が、その方の「閾値」で、減感作療法の、まず最初の目的は、閾値の濃度のスギ花粉エキスを注射しても、反応が出ないようにすることです。

そのために、閾値の濃度を薄めたものから出発して、そのあと慎重に患者さんの様子をみながら、注射液の濃度を上げていきます。そして、エキスがその人に対して許される最大の濃度になったもの、これが「維持量」です。この「維持量」の濃度は、人によって、またアレルゲンによって違いますが、スギ花粉で使っている濃度の単位の場合、ほぼ2000JAU(ジャパニーズ・アレルギー・ユニット・日本で使っているスギ花粉エキスの濃度の単位)、量としては0.05~0.1ミリリットルくらいです。

薄めた花粉エキスを、一定の間隔で注射していきます

さて検査の結果、あなたの閾値が1000分の1の希釈倍率だったとしましょう。

最初の注射は、その10倍薄い、1万分の1の濃度から始めて、週に2回ずつ注射していきます。第1回は、標章エキスを1万分の1に薄めたものを0.02ミリリットル、皮下に注射します。この濃度は、スギ花粉で使っている濃度の単位では、ほぼ2TJAUに相当します。

次はおなじ濃度で0.03ミリリットル、その次は0.05ミリリットルと量をぶやしていって、第5週の9回目に0.5ミリリットルまで増やすことができたら、今度は濃度を10倍濃くして、20TJAUの濃度の液を0・05ミリリットルから注射をし、8週が終わって16回目に0.5ミリリットルになったら、さらに濃度をあげます。この方法を、減感作療法の「50パーセント増量法」と呼んでいます。

注射したところが腫れても、焦ることなく、ようすをみながら、気長に少しずつ量をぶやしていきます。そして、0.5ミリリットルになったら、さらに濃度をあげます。そして、ジンマシンが出たり、赤く腫れたりしない、ぎりぎりの濃度、注射をしたところが、2~3センチくらいしか腫れなかったり、症状が改善されたことが確認できたら、これが「維持量」となり、以後はこの濃度と量の注射をくり返していきます。15週までいかずに維持量に達する方もたくさんいますが、たぶん、最初にしらべた閾値よりは、濃度の高いエキスにも耐えられるようになっているはずです。

注射する間隔は、最初の15週が週に2回です。この間を「増量期」といって、からだのなかに入れる抗原の量をぶやしていっている時期です。そして「維持量」に達したら、その後が「維持療法」の時期となり、最初の4週が1週間に1回、その後の8週が2週間に1回、そのあと1ヵ
月に1回の注射を、「よくなる」まで、つまり、注射したところも腫れず、目や鼻の症状も出なくなるまで、最低2~3年くりかえす、ということになります。

このスケジュールのエキスの濃度や回数は、季節や患者さん一人ひとりの状態や反応によって、もちろんちがってきます。もっとも理想的な一例をあげると、十月から治療を始めれば、花粉がじっさいに飛び始める三月には、2週間に1回の注射という維持療法の時期に入り、花粉シーズンの四月五月は1ヵ月に1回の注射でのりきり、さらに夏、秋、冬とつづけていく……。

しかし問題は、この方法だと、人による違いはあるにせよ、順調にいっても維持量になるまで12~13週くらいかかり、その間に30回近くも通院しなくてはならないことです。そこで、4~5日の入院で、毎日夜数回の注射をして維持量までもっていく「急逓減感作療法」もあります。入
院できるなら、どんな人にもできますが、ただ、維持量に達したあと、2週間に1回とか1ヵ月に1回、通院していただくのは同じで、入院しているあいだに減感作療法が終わるわけではありません。

私たち日本医科大学では、「半急速」とでもいえばいいでしょうか、この両者の中間をいく、入院せずに、しかも通院回数をへらして、8~10週で維持量にもっていく、独自の方法をやっています。患者さんの負担は大幅に減りますが、その一方、副作用の発生が高くなる可能性があるので、花粉症やアレルギーについて、よくよく知っている専門医のもとで、慎重に行なわなければなりません。その方の状態ではどうしてもできないこともありますから、ご自分の症状でこの方法ができるかどうかは、主治医の先生とご相談ください。

また、妊娠している方は、「増量期」の治療は控えていただきます。ただ、「維持療法」の段階に入っているなら、妊娠も可能ですし、妊娠中も、授乳期になっても、維持量の注射には、なんの問題もありません。

そして、全ての人に共通ですが、注射がおわってからの20~30分は、必ず近くに座って過ごしていただきます。これは、副反応(副作用の反応)が出ても、すばやく、きちんと対処するためで、なんともないのを確認してから、帰っていただく、ということになります。

ちなみに、検査もふくめ、この治療はずっと外来で行ないます。そして、健康保険がききますから、再診料と注射の治療費は、3割負担で1回数百円くらいです。

時間と手間がかかるし、副反応も心配ですが、でも大丈夫

この減感作療法が、花粉症のアレルギー反応を起こりにくくさせ、ときにはまったく起こらなくする治療であることには、誰からも異議はでません。ただ、いくつか問題点があります。

その一つは、患者さん側にかなりの根気が必要だということです。ふつうの方法では、効果が出るまで約1年かかります。とくに最初のうちは、毎週2回、病院へ通わなくてはなりませんから、忙しい方などは、つい二の足を踏むことになってしまいます。

定期的に通う病院やクリニックが近所に必要だ、ということが、第二の問題でしょう。どの病院でもいいわけではないし、やっているところを捜すことから始めなくてはならない患者さんもいます。しかも、症状が出ていないのに病院へ行くということは、基本的にかなり面倒なことで、
なかなか続かない原因の一つになっています。

三つ目は、注射にともなう「副反応」が起こる可能性が、多かれ少なかれある、ということです。注射したところがパンパンに赤く腫れたり、ジンマシンが出たり、ときにはアナフィラキシーショックという強烈な症状も起こりえます。

「副反応」への対応は、経験のあるアレルギー専門医なら、間違いなくやってくれます。私たちはあわてないし、わかっていれば、患者さんも驚きません。アレルギー症状が強く出たらこんな症状になるのですと、常日頃から患者さんにお話しして、つぎは少し量を減らしましょう、と
いえば、納得してくださいます。そして、しばらく休んでいただいて、その日そのまま病院から帰れるように手当てをします。充分な経験を積んでいるから、「大丈夫です」と患者さんにいうことができるし、患者さんもその言葉を信用して下さるのです。

なにも事前に説明せず、しかも放置するから問題になるのです。減感作療法が医師も施設も選ぶといわれるのは、そのためです。

四つ目は、注射がいやだとか、痛いという人には苦手な治療だということです。いくら細い針を使っても、痛みがゼロになるわけではないし、注射液そのものがもたらす痛みもあります。

五つ目は、重複抗原といって、花粉症の患者さんは、スギだけでなく、カモガヤなど、ほかの花粉にもアレルギー反応が出ることが珍しくありません。同時にやれば別ですが、カモガヤなど標準抗原がないときは、重複の具合によって、なかなか効果が上からないことも起こります。スギの減感作療法が効果をあげれば、それに伴って、ほかのアレルギー反応の改善も期待できますが、それはあくまでも「期待」の範囲内のことです。

六つ目は、効いたかどうかを判定する基準が、まだ定まっていないことです。糖尿病の血糖値のような、効果がそのまま反映する客観的な指標が、花粉症にはありません。花粉の飛散状況は年により地域によってちがうため、花粉が少ないときは症状が軽くなって、治療の効果と関係なく「効いた」と思ってしまいがちですし、花粉が非常に多い年なら、効いているのに症状が出ることもあって、単純な比較ができにくいのです。

じつは、効いたかどうかの「判定基準」も、ないわけではありません。私はそのために、オハイオーチェインバーを使って、「誘発試験」や「鼻汁量検査」をくりかえしやっています。じっさいのスギ花粉を、決まった量、使えますから、鼻汁の量がこれくらい減れば、この人はもう花粉を吸い込んでも症状は出ないな、と、客観的な判定基準になりますが、どこでもやっているわけではないのが、悲しいところです。

七つ目は、健康保険の制度上、この減感作療法をする医師側のメリットが、あまりにも少ないことです。減感作療法を安仝にきちんとやろうとしたら、看護師けじめ、スタッフの数も必要ですし、診察時間もかかります。それなのに、保険の点数が低いのです。

どれも、患者さんはもちろん、医師にも足をすくめさせるに充分な、大きな問題です。しかし、どれも乗り越えられない問題ではありません。 というわけで、現在の減感作療法がかかえている問題点の主なものは、ほぼ解決できると、私は考えていますが、さらに、いろいろ改良した新しい「減感作療法」が開発され、その有効性などが確かめられているところです。

《検査の項目》

  • 鼻粘膜(鼻鏡)検査
  • 鼻汁好酸球検査
  • RAST検査
  • 皮膚反応検査(皮内テスト)
  • 鼻誘発検査(鼻誘発テスト)
  • エックス線・CT検査

鼻づまりが強い方に、副鼻腔炎などがないか。ポリープなどほかの鼻の病気がないか、調べる検査です

《減感作療法の副作用》

これには、注射したところに出る局所の反応と、全身的な反応があります。局所の反応は、注射したところが赤くなったり、腫れたり、蝉くなることで、ある程度、注射液の濃度が高くなったころに出がちです。赤くなったり腫れたところが3センチ以内で、それが3日以内におさまるなら心配はいりません。ただ、5センチ以上になったら要注意です。

全身の反応には、ジンマシンが出たり、鼻炎の症状が悪化したり喘息の症状がでたり、ということがあります。もっとも重い反応はアナフィラキシーですが、経験のある専門医のところなら、ほとんど起こることはありませんし、起こっても、ほとんどベッドで寝こむことなく、病院を歩いて出られるくらい、よくなります。こういうことができるのが専門医ですし、逆にいえば、そういうことができるスタッフのところで行なう治療なのです。

減感作療法に経験のある医師が行なった場合、喘息発作が起こるのは、1000~2000回の注射に1回、アナフィラキシーは200万回の注射に1回程度といわれています。

実際、日本医科大学では、週に50人ほど減感作療を続けていますが、アナフィラキシーは1990年以来、一人も起こっていません。また1979年から1990年まで1600例以上の減感作療法を行なって、全身の発疹や喘鳴などがみられたのは、症例数でいうと約1パーセント、注射の回数を考えると、0.1パーセントで、これをみても安全な治療法だということができます。



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