花粉症にもワクチンがあるそうですね。どういうものなのでしようか。もう実用化されているのですか。
花粉症ワクチンは、この章の最初に述べた「舌下減感作療法」に対する、もう一つの方向のものです。つまり、からだに入れる抗原に手を加えて、かたちを少し変えたものにした試みの一つですが、これまで私たちが受けてきた「ワクチン」とは、仕組みが多少違っています。
天然痘やポリオなど感染症のワクチンは、病原体の毒性をなくしたり弱めたりしたものを注射して、体に抗体をつくらせ、その病気にかからないようにします。ただ、花粉症は、花粉に感作された細飽か出す物質によるアレルギー反応ですから、感染症のようなわけにはいきません。
では、花粉症ワクチンは何を狙っているのか……、それは体を「細菌が感染したのと同じ状態」にすることです。
からだに害をする細菌がやってきたときと、本来は害をしない花粉がやってきたときとでは、免疫の効き方はまったく違います。細菌がやって
くると、ヘルパーT細胞リンパ球のうち、I型が働き、花粉がやってくると、2型が働きます。そして私たちの体のなかで、1型がふえると2型がへり、2型がふえると1型がへるというかたちで、いつもバランスをとっています。ですから、細菌感染が起これば、それを退治するために1型がふえて2型がへり、結果的にアレルギーを起こす2型を減らして、アレルギーの症状を抑えてくれるはずです。
そのために、抗原のスギ花粉のなかから花粉症を起こすアミソ酸の部分を取り出し、それを毒性をなくした細菌のDNAに組み込みます。これを注射すると、私たちの免疫系は、「すわ細菌感染だ」と勘違いして、I型リンパ球をどっとぶやすのです。これが花粉症ワクチンこと、CPGワクチンの仕組みです。
イヌを使った実験でその効果が確認され、いまサルをつかった実験を計画しています。従来の注射による減感作療法とくらべて、治療終了までの期間がうんと短縮されること、そして、重篤な副反応が起きないことが利点とされています。
ワクチンといえば、おなじみのBCGがあります。これは結核のワクチンですが、これを接種すると、やはり細菌感染とおなじような状態が起こり、アレルギーを起こすIgE抗体のつくられる量が、うんと少なくなりますから、その分、症状が軽くなることが期待できます。
こういう、以前からいわれていたBCGと花粉症の関係が、いま明らかになりつつあって、千葉大学で臨床試験がつづいています。これはBCGを年に4回にわけて打つというもので、第1回のBCG接種で、花粉症の症状を起こす患者さんの拍E抗体の産生量が、3分の1から4分の1にへりました。その分、花粉症の症状も軽くなるでしょうから、BCGをつかったワクチンも出てくるかもしれません。
新しい治療法のもう一つは、細菌とは関係なく、アレルゲンの花粉に別なものを加えたり、ある物質をとりはずしたりしたものを使うという方法です。
その一つがペプチド減感作療法(ペプチドはタンパク質の分解過程でできる、アミノ酸がいくつか結合した物質)で、スギ花粉エキスのアレルゲンから、アレルギー細胞と結びついて症状を起こすペプチドを取り外したものを使います。
こうすれば、アレルゲンはアレルギー細胞と結合しませんから、アナフィラキシーの不安もなく、一度に大量に打てます。安全で、効果が出るまでの期間も早く、回数も少なくてすみますし、しかも、免疫効果も高いはずです。ほかに、スギ花粉抗原にプルランという糖タンパクをくっつ
けたものもあり、これも治療期間の短縮を目指しています。
ペプチド減感作療法は、もうヒトでの臨床試験が始まっていて、2013年中には終わる見込みです。実用化は花粉ワクチンより早いかもしれません。
いま欧米で注目されているのが、花粉症の症状のもとであるIgE抗体が体内でできるのを抑える治療で、抗体治療(抗IgE抗体療法)といい
ます。IgE抗体の産生をおさえてしまえば、アレルギー性鼻炎そのものがなくなってしまいます。つまり、アレルギー本体に対する治療で、スギだけでなく、ヒノキでもカモガヤでも、あらゆる花粉症の症状がなくなるし、ハウスダストによるアレルギー性鼻炎からも解放されるのです。
アメリカや日本で行なわれた治験では、すばらしい効果が確認されました。ですから、日本でもということになるのですが、クスリの値段がものすごく高価なのです。そのため、医療費削減が至上命題の厚生労働省は、なかなか奨めることができません。治験こそ終了したものの、花粉症に対しては、保険で使うための申請はされない見込みです。というわけで、
新しい減感作療法のワクチン部門についてまとめてみると、
ということになります。